Nikon Z fc

Nikon Z fcがリークされた、去年の夏の衝撃を思い出す。

Nikon Z fc

「なにやらNikonからレトロスタイルのカメラが出るらしい」…そんな噂と部分的な製品写真がリークされてツイートが出回り始めたのが、ちょうど一年前の今頃じゃないだろうか。

その頃のニコンは、僕らカメラ好きから見てもかなりの苦境に立たされていた。フルサイズミラーレス機へのシフトに出遅れたニコンは、昔からのニコン愛好家たちが熱く励ましつつも、その業績も含めてとにかく元気が無さそうに見え、それはカメラ界全体の元気の無さなさえ影響を与えていたレベルだと思う。

そんな最先端技術競争の様相の中に突如として現れたレトロスタイルのカメラのリーク写真だったから、その噂を歓迎する古くからのカメラファンがいた一方で、こんな時計を巻き戻すような製品を出すなんてニコンは正気か?と思った人も少なくないんじゃないかと思う。

僕もクラシックなスタイルのカメラが好きな人間だけに、Nikon Z fc登場の噂が本当ならうれしいけど、それが刺さるのは往年のニコンファンだけで、市場に活気をもたらす一撃としてはいささかニッチすぎるのではないか、という思いが正直あったと思う。

Nikon Z fc

しかし…発売から一年を経過した今、このカメラが市場に想像以上のインパクトを与え、その勢いに続くようにミラーレスフラッグシップ機のNikon Z9が発表され、世界的な半導体不足の影響もあるがZ fcもZ9も予約殺到で品薄が続き、その渇望具合からNikonは世の中から求められる存在として再び活気を取り戻したように見える。たった一年の出来事である。

Nikon Z fcは「これを出すならフルサイズじゃなきゃダメだ」とか「見た目は良くても作りが安っぽすぎる」とかいう声も聞かれたけど、このカメラをビギナーにも求めやすいAPS-Cサイズで出してきたことは正解であり、英断だったと思う。いまでもTwitterなんかを見てみると、カメラを始めようとするビギナー層の人たちに強く支持されていることが分かる。

カメラの世界に限らず、世の中どんな製品でも「新規で始めるビギナー」が次々と生まれてこないと、やがてそのジャンルは廃れる。例えハイアマチュア層だけに照準を絞って高価格帯製品でその時は潤っても、その層もやがて歳をとり市場を牽引するボリュームは無くなり、そこまでマーケットが縮小してからビギナー層開拓に焦っても、もう遅い。

それゆえに、そのマーケットの入り口に、常に新しい人たちが入ってくる門戸を開く試みが、本当の意味で中長期的な市場育成につながる。そして、それはファンの育成とファンと一緒に成長するヒストリーの形成にもつながる。僕はその意味で、Z fcの投入は、ニコンにとってとんでもなく大きな出来事であったと思っている。

Nikon Z fcというカメラは、オートで撮ればビギナーが手軽に楽しめるアクセサリーのようなお洒落なカメラとして使える一方で、MFレンズをつけてマニュアル撮影すればマニアックな写真撮影も楽しめる、実に懐の深いカメラだ。単に往年のデザインだけでハイアマチュア層までが熱狂したわけじゃない。「写真を撮る楽しみ方」に今一度、一石を投じたことが大きかったと僕は感じている。

実際、このZ fcを初めてのカメラとして手にしたビギナー層の人たちが、やがて本格的に露出を楽しむカメラとして活用しようと思えば、いかようにも使い倒せる包容力がこのカメラにはある。そういう場所へ、ニコンが立ち返ったように見えることも、カメラファンの一人としてはうれしい。カメラとは単に写真が写ればいい、という便利さだけにとどめておくのはもったいないエモーショナルな魅力を内包しているからだ。

Nikon Z fc

趣味の世界は、ビジネスの世界と違って単に効率的でショートカットできればありがたいという世界ではない。見た目に心が震えるかとか、ダイヤルのクリック感にゾクゾクするかとか、むしろ簡単に上手くはいかないところに面白みを感じられるかとか、無駄や難解さ、手こずりつつもやっと正解らしき方法を手繰り寄せる感慨深さみたいなものが心を躍らせる。

そういう人間の探究心や熱さみたいなものに響くカメラを、これからもニコンを始めカメラメーカー各社には提供してほしいと一ファンとして思う。意外にも、趣味という世界は人の人生に大きく影響し、その価値は嗜好品にお金を出すという大きなマーケット形成への、遠回りに見えていちばん近道な気がする。

あれから一年、確実にそのマーケットには変化が起きているように見える。Z fcはその扉を開いた一台なのだ。

Nikon Z fcのレビューまとめのようなもの。 その突然のレトロスタイルミラーレスの発表に世の中がどっと沸いたNikon Z fc。7月末に販売開始されてから4ヶ月ほど経ち、少...

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