なにかとカメラやレンズの価格が高いなかで、中華製レンズはお得さとおもしろさを兼ね備えた貴重な存在だったりする。僕もここニ、三年で数本の中華製レンズを使ってきたけど、年々その質感の向上具合にちょっと驚いていたりもする。
そんな中華製レンズを各種取り扱う2ndfocusさんから、明るい単焦点&チルトレンズのAstrHori 50mm f1.4というレンズをお借りしたので、その試し撮りをした感想みたいなものを少し紹介したいと思う。
このレンズをお借りするまで、正直「AstrHori」というブランドを知らなかったのだけど、中国語表記では「岩石星」と書いて、AstrHoriは〈アストロリ〉と読むとのこと。続々と頭角を表す中華製レンズのベンチャー企業のひとつだと思うけど、おそらく日本ではまだそんなに知られていないブランドなんじゃないかな。
まず特徴的なのは、やはり大口径レンズでありながらチルト撮影が楽しめるということだろう。装着写真をよく見てもらうと、そのユニークな形がお分かりいただけるんじゃないかと思う。レンズ部が、三脚の自由雲台のようにいろいろ傾けて動かせて、最初はちょっと驚く笑。
このレンズが届いた時には、そのあたりの構造のことがよくわかっていなくて、カメラに装着したものの、あれ?レンズの絞りや距離の表記が下側になって見えないぞ?とドギマギしたのだけど、実は最もカメラ側にもうひとつ回転させるリングがあり、これをクルクルと緩めることで本当にレンズ部が自由に動かせるのである。絞り表記もしっかり見えるように上向きにでき、ホッとしたり笑。
で、使い方としては、鏡筒を普通に真っ直ぐしていれば普通のf1.4の明るい単焦点レンズとして使え、絞りを開けてレンズ部を傾けて使うと「チルト=いわゆるミニチュア風撮影」などが楽しめる。レンズには珍しい「一粒で二度おいしい」みたいななかなかユニークな作りなのだ。
試し撮りに連れ出す時に、まずは普通の大口径レンズとして楽しんでみようと出かけてみたのだけど、すぐに興味を抑えられなくなってチルト撮影にもどんどん突入。撮影していても、とにかくそういう遊び感覚が湧き出るというか、撮り手を飽きさせないレンズだなと思った。
この焦点距離50mmのレンズは、APS-Cの富士フイルムXマウントに装着すると、35mm判換算で75mm程度の中望遠の画角になる。f1.4の中望遠となるとボケも豊かで、開放撮りが楽しい。最短撮影距離は50cmと、撮っていてもう少し寄れればなとは感じたけど、花撮りなんかの散歩レンズとしてはお手軽なレンズだろう。
花撮りでは特にチルトを使う必要はないんだけど、僕の場合は極度のボケ好きなんで、そんなシチュエーションでも開放&チルトをガンガン試してみたけど、これはこれでボケが不思議な舞い方をするというか、遊び心としてアリだと感じた。自然の中でも引き気味で撮れば、やはり独特のチルト効果が味わえるのだ。
一方で、ミニチュア風撮影といえば、やはり人や車、建物なんかが並ぶ街中へ出たほうがおもしろいんじゃないかというイメージがあって、僕も連れ出してみた。なるほど、これは理屈抜きにシンプルに遊べる。
EVFをのぞきながら絞りやピント、チルト機構を動かすと、ファインダーの中で小さな世界がおもちゃのようにいろいろと変化して、ちょっとチャップリンの映画をのぞいているような気分になる。なんだ、この見たことのない世界観はと。それを一度体験して以来、もう僕は常時チルト全開で試し撮りしていたくらいなので。
ライブビューや撮影後画像を背面モニターで眺めても、そのミニチュア風効果の写真は撮影者をワクワクさせてくれる。そうか、こういう撮影時の楽しみ方というのもあるんだなと、新鮮な気づきでもあった。
まあ、僕の場合は試し撮りということもあって、ちょっとやりすぎというくらいチルト全開、絞り開放全開で撮りまくったのでちょっとファンタジーが過ぎる写真になってるけど笑、そこは醸し出したいミニチュア感をEVFを見ながら調節すれば、もっと「らしさ」は追い込んでいけるだろう。
なんだか遊び心いっぱいみたいなことを書いてると、作りもおもちゃぽいのでは?と思われたしまうかもだけど、これが真逆でガラスの塊感と金属の塊感とで、なかなかずっしりと重厚感がある。マニュアルフォーカスの各部の動きも実になめらかで、このあたりが最近の中華製レンズは「本気」だなと感じる。
カメラ好きな人はすでに明るい標準域の単焦点レンズは持ってると思うけど、そういう人には「チルトで気軽に遊べる一本」として、これまでキットズームでしか撮ったことがないという人には「明るい単焦点レンズで、しかもチルトも楽しめる一本」としてレパートリーに加えてみるといいんじゃないかと思う。
価格は割引なども利用すれば2万円台後半と、これもまた純正レンズなんかと比べても買いやすい設定ではないだろうか。明るい単焦点+チルト機構付きと考えると、2種類のレンズの描写を楽しめるともいえるので、そういう意味ではなかなかお買い得なんじゃないかと思った。
と文章で綴るとこういう説明になるけど、なんといっても「こういうレンズを一本持っておくと楽しい」というのが僕の率直な感想といったところ。日々の写真や撮影プロセスに「遊び的なスパイス」を加えてみたい、という人には選択肢に入れていい一本じゃないだろうか。
こういう「遊びの要素」みたいなことを本気で作り込むというのが、いまの中華製レンズのベンチャーの勢いだし、熱量みたいなものなのだろう。モノづくりはこなれてくるとどうしても遊びの要素がなくなりがちで「おりこう」なモノが増えがちだけど、このAstrHoriというブランドにはまだその心意気がプンプンと香る。
そうそう、僕は今回スチル撮影メインで試し撮りをしてるけど、動画撮影をする人なんかにもチルトレンズはおもしろい「目」になるんじゃないかな。AstrHoriの公式YouTubeを見ると男子なら思わずワクワクするはずだ。
今回ご縁があって、AstrHoriを取り扱う2ndfocusさんと巡り会ったのだけど、そうやって国外のユニークなレンズ(AstrHori以外にもいくつかのブランドを扱っている)を日本にどんどん呼び込みたいという熱意に、個人的にもちょっとファンになってしまった。ぜひともいろんな角度からカメラ界を賑わせてもらえたらなと期待している。
最後に、僕は今回Xマウントのものをお借りしてるけど、マウントは各種揃っていてRF、E、L、Z、MFTも選べる。フルサイズやマイクロフォーサーズで撮ると画角の雰囲気もまた違って楽しめると思う。街撮りに持ち出す機会もあるカメラのマウントを選ぶとより楽しいかもしれないね。
というわけで、きょうはお借りしたユニークなレンズの試し撮りのレポートでした。
◎追記)このレンズをはじめ、AstrHoriブランドのレンズが2ndfocusさんのサイトやAmazonの2ndfocus公式ショップでクリスマスセールが始まっていて、2割引き等々でお安くなっているとのこと。詳しくスペックなんかも公式サイトでいろいろ確かめてみてください。