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ここのところ、先日手に入れたFUJIFILM X100Vと撮り歩くことが多かったが、僕にはもうひとつこよなく愛するコンパクトなカメラがある。それがOLYMPUS PEN-Fだ。
残念ながらこのPEN-F、もう新品では手に入れることができない。オリンパス社がカメラ販売の不振で映像事業を手放してしまうからだ。とても寂しい出来事だけど、いまの世の中、売れるカメラを作ることはなかなか至難の業であり、致し方ないと冷静に捉えられるじぶんもどこかいる。
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このPEN-Fが思うように売れなかった理由は、ひとえに「素晴らしいカメラ過ぎた」ということだと思っている。正確にいうと「こだわり過ぎた」のだ。それほどまでにこのカメラに注がれた開発者の情熱は、このあたりのポジションのカメラの質を逸脱している。
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そういうレベルの質とは、カタログ写真なんかでは分からない。手にとった時に「これは別物」という得体の知れない迫力に圧倒される、そういうレベルのもの。PEN-Fは一見、従来からあるマイクロフォーサーズの普及機PENシリーズと同じに見えるが、その作り込みの質の恐ろしさには思わず笑みが出る。
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作り込まれ過ぎた点をあげればキリがないが、ここではその尋常ではないシャッター音(フィール)の素晴らしさに触れておきたい。この点については、僕がいま同じく尋常ではないレベルで気に入っているFUJIFILM X100Vも到底敵わない。PEN-Fの圧倒的勝利だ。いや、もっといえば、世界一美しいと思われるNikon F6のシャッター音に匹敵するといっても過言ではないだろう。
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デジタルな感触ではあるんだけど、それはとても人間らしいエッセンスが感じられる、とても尊い音と感触。いわゆる音を極限までチューニングしただろうことが撮り手に伝わってくる。妥協などすればこんな音と感触にはならない。おそらく恐ろしい数の試作品テストを繰り返したのち、この人間の本能に響く音色に到達したことは想像に難くない。
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いいモノというのは、あるレベルを超越してしまうと、時に狂気とかマニアックと表現されてしまう。その良さが繊細過ぎて、普通にいいモノを超えすぎて、それは普通のものではなくなってしまい、普通の人にはわからない良さ、つまり普通の人には売れない「別物」になってしまう。PEN-Fはまさにその普通の良さを超越してしまったカメラではないかと考えている。
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その小気味いいサウンドは、街撮りの雑踏の中でも脳にダイレクトに届き、いまじぶんはシャッターを切っているということを強く意識させる。けれど、このサウンドに浸るなら、辺りが静寂に包まれた空間がいい。週末の郊外の人っけのない早朝の散歩道、そこでPEN-Fと向き合い、この格別のシャッター音に耳を預けるのである。動きのない水辺に、小石を投げ込んで広がる波紋のように、言葉では言いようのない至福の感情が撮り手の心に広がる。
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もう、こういうカメラは二度と出てこない。売れないから。あまりにこだわり過ぎて売れない。なんとも不幸なことだけど、それがマーケットの現実でもある。僕は幸いにも、ある日店頭でこのPEN-Fに触り、この見過ごされそうな狂気のクオリティに気がつくことができた。
これだけモノが飽和している時代にあっては、いいモノを見過ごしてしまう数も半端ない。二次元で目にする情報からは到底得ることのできない、五感を駆使して初めて感じとることのできる感動とか歓びを今こそ大事にしたい。カメラはいま、そういう表層的ではない歓びが届きにくい製品になってしまったかもしれないけど、僕はそこにこそ悦楽を見出したい。少し古い人間だから。