日曜の夜、家族も街も寝静まったこの時間の空シャッターは、M3ということになる。
開けた窓から静かに日曜日の夜の音が聞こえてきて、毎度のことだけど明日からの仕事のことが脳をよぎり少し物悲しい。これは学生の頃から変わらないし、仕事を引退するまではずっと続くことだから、気持ちを取り直してポジな気分へと転換をはかる。僕の場合なら、カメラをさわり、レバーを巻き上げ、空シャッターを切るという行為だ。
さすがに辺りが寝静まったこの時間だと元気な音の一眼レフを鳴らすのは気がひける。だから、チョイスはおのずと静音のレンジファインダーLeica M3ということになる。購入する時は二台在庫があったうちの程度のいいほうを選んだだけだったんだけど、たまたま僕が選んだのは初期型の製造番号75万台のもの。
M3の中でも最も静かなシャッター音だと知ったのは後になってM3のことをいろいろ調べ始めてからなんだけど、そう言われれば驚くほど手の中にあるM3のシャッター音は静かだ。部屋の扉さえ閉めておけば、まず部屋の外から空シャッターを切っていることはわからないだろう。
そういえば、こうして空シャッターを楽しむようになったのはM3を持ち始めてからだ。それまでの僕はフィルムを撮り終えたらすぐ次のフィルムを装填していて、空シャッターを切るという概念が存在していなかった。デジイチD750を所有していた時もシャッター音はとても好きだったけど、それも聴くのはあくまで撮影の時の楽しみであって、こうして部屋の中で空シャッターを楽しむということはなかった。
当時のカメラの開発者たちがどこまでそこにこだわっていたかは定かではないけど、このクラシックカメラたちの奏でるシャッター音というのは言いようのない美しさというか聴き惚れる要素がある。当時の匠たちに敬意を評しながら、今夜もしばらくシャッター音に酔いしれ、明日からの英気を養うのである。