僕は撮った写真に後から手を入れるという、いわゆるレタッチというものをちゃんとしたことがない。これにはいくつかの理由がある。まず、僕が面倒くさがりということ。ふだん僕が撮る写真たちはごくごく普通のスナップだし、それをわざわざレタッチする時間を確保してまでいじるという観念が僕にはない。あと、どうも僕はレタッチされた写真があまり好きではないようで。他の人が撮った写真でも、レタッチしましたと分かる写真にはほぼ惹かれない。正確にいうとレタッチしたことを感じさせない写真が好きということかな。とはいえ、デジタルで写真を撮ると、どうしても写りすぎるというか生々しすぎるというか、あの質感も好みではない。だからだと思うけど、僕がデジタルで撮る時はモノクロで撮ることがほとんどだ。考えてみると、僕がデジイチを過去にやめてGRでモノクロばかり撮り始めたのも、そのことが多いに影響しているかもしれない。
そうしてたどり着いたのが、フィルムだった。最初はフィルムでもモノクロが撮りたかったんだけど、モノクロ現像機があるラボが近くには無くて、物理的に可能なカラーネガフィルムを始めた。最初に手に入れたフィルムカメラNikon FEで撮り方も分からず恐る恐る撮ったんだけど、そうするとこんな写真たちが撮れたんだよね。
今となってはどんな絞りや設定で撮ったのかも定かじゃないけど、正直驚いたんだよね、その写りに。あ、いいな、フィルムの質感って、てね。フィルムはいちばん安いFUJI業務用だったし、カメラは一万円もしない年代物だったし、何より露出なんかもちんぷんかんぷんだったにも関わらず、フィルムは大きな包容力で僕にとっては想像以上の写真を生み出してくれた。このフィルムの質感になんというか心奪われて、その日以来、フィルムで撮った写真は一枚もレタッチなどしたことがない。
他のひとたちがどうしているかは分からないんだけど、もともとレタッチが好きではなかった僕がフィルムに出会って、もうたぶん僕は一生レタッチとは縁がないんじゃないかと思う。特に作品を撮ってるわけじゃないし、家族の写真なんかは逆に手を入れたくないというか、その時のありのままの日常を残したいと思うから。だから、この先の僕はフィルムを変えて写真の質感の違いを楽しんだり、撮るものそのものや撮り方を試行錯誤しながら写真の質感が変化することを追いかけていくんだろうなと思う。
とはいえ、それもあくまで今の僕が考える心境であって、この先それも変化していくのかもしれない。だって、フィルムで撮るなんて面倒で想像もしていなかった僕が、いまこんなにもフィルムにハマっていたりするし、一度はやめたデジイチを買い直してマニュアル撮影やモノクロ写真を楽しんでるわけだからね。にんげん、ほんと、明日のことか一年後、数年後のことなんて分からないから。というわけで、いまの気分の記憶として。