この道具感が愛おしい。エルマー50/3.5用フード「FISON」。
今週手に入れたバルナックライカIIIaとElmar 50/3.5で試し撮りをする前にどうしてもフードだけは手に入れておきたくて、出張で訪れた東京で老舗の中古カメラ店、銀座レモン社に初めて立ち寄ってみた。
銀座界隈は個人的に好きなエリア。世界のハイブランド店が立ち並ぶ一方で、古き良き時代の薫りとそれを象徴するような老舗ショップが絶妙に混じり合い、この界隈だけが持つ独特の空気がある。銀座レモン社も、まさにそのモダンとレトロが混じり合う数寄屋橋の年代を感じさせるビルの中にひっそりと店を構える。
なんとも味ある昭和感にあふれたエレベータに乗り込み、8Fのフロアに到着すると、目の前に中古カメラの聖地のような趣ある光景が出現する。その巨大といっていい店名入りフロアマットが印象的だ。店に入ると、所狭しとショーケースが並び、中古カメラ好きにはたまらないミラクルワールドが展開されている。あらゆる銘柄のクラシックカメラが並ぶが、なかでもフィルムライカのラインナップは充実してるように思えた。M型、バルナック型ともにそれぞれ20点以上は揃っていたし、レンズや関連グッズも種類多く取り揃えられている。僕の御目当ては、今日のところはエルマー50/3.5用のレンズフードだった。
しばらく眺めていると、御目当のフードはどうやら二品あることがわかる。事前に少しネットで調べて気になっていたシルバーのライカ純正フード「FISON」と、ブラックの絞り連動フード「VALOO」だ。見た目にはFISONがいかにもバルナック に似合いそうなフォルムだったけど、せっかくだからお店にあるバルナックに二つを装着してもらい、最終的に直感でいいと思う方を選ぼうと思った。店員さんいわく、FISONを装着すると絞り調整が若干やりづらくなるが、おすすめはと言われればやっぱりFISONだとアドバイスをもらう。
実際、そのフード「FISON」は素晴らしくまぶしく見えた。IIIaとドンピシャ合いそうなクラシカルな佇まいは、そこにあるだけでタイムスリップしたかのような気分にさせてくれる。中古でしかもある程度使用感のあるフードだけど、お値段のほうはなかなか目が飛び出るようなプライスタグをつけていた。なんと¥17000もするのである。ほんと桁が一桁間違ってるんじゃないかと思わず動揺するくらいの値段だ。オールドニッコール用の中古フードなら十個以上は買える強気の値段だ。けれど、気持ちは決まっていた。この週末に初めてIIIa×エルマー50/3.5の試し撮りをしようと思ったら、この目の前のフードを買っておくしかない。そういう背中を押すようなオーラがこのフードFISONにはある。
決して極上の美品ではないが、少し使い込まれた感じが、いかにも男の道具感をプンプン放ってくる。たかがフードだけど、されどフードなのだ。昔のレンズは現代のレンズほどコーティングなど丁寧に施されてはいないから、逆光気味で撮ると盛大にフレアやゴーストのある写真を量産すると聞いていた。それはそれで一度試してみたいという好奇心はあるものの、基本的にはレンズのポテンシャルを最大限引き出すためにも、フードはまさに必須アイテム。ネットで調べれがまだまだ割安で買えるオークションなんかもありそうだけど、僕はこの目で確認して購入したかったから、こうして装着イメージまで確認できる銀座レモン社のひとときはなかなかありがたかった。
製造番号はまだゆっくり確認していないけど、おそらくIIIaと同じ約80年ほど前に製造された一品ではないだろうか。その割にやれた感じはなく、いかにもドイツ職人の厳格さと機能美を絵に描いたような佇まいは、バルナック 好きなら一発でノックアウトされそうなカッコ良さを秘めている。冷静に考えると躊躇するよな高額のフードだけど、在庫が一個だけなのを考えると、どこでも手に入れられるモノでもなさそうだと思い、銀座レモン社での購入を決めた。
皮のストラップも欲しかったけど、好きなアルチザン&アーティストのストラップはお似合いの品の在庫がなく、今回は購入を見送りに。ひとまず今週末は、古びた昔のストラップをつけて試し撮りに出かけようと思う。
これでボディ、レンズ、フードと揃ったが、なにせ80年ちかく昔の製品たちだけに、ちゃんと撮れるかどうかは試し撮りして現像があがってくるまで分からない。けれど、フィルムをやる人間の一人としては、このひとつひとつ道具を買い足していく感じが実にワクワクしてたのしい。写真の神様にちゃんと撮れることを祈りながら今夜は眠りにつくとしよう。天気予報的には明日は曇りだ。悪くない。