ここ二週間ほどは手に入れたばかりのバルナックライカIIIaの試し撮りに集中していたんだけど、そうするとレンジファインダーで街撮りする魅力を再認識して、だったらLeica M3も連れ出したいと無性に思うようになった。で、金曜日の夜、仕事鞄の中に忍ばせていたM3を取り出して、夜の街を徘徊してみた。結論から言うと、めちゃくちゃ気持ちよかった。
何が気持ちいいって、世界がまぶしいんだ、素晴らしく。バルナックとM3の最大の違いはファインダー。ふたつ窓がひとつになり、大きく、明るく、クリアになったファインダー越しの世界は、ほんとキラキラと輝いてた。この世界を見たら、どんなカメラも霞んでしまう、そんな至宝のファインダーがM3の最大のポイントだ。
M3のファインダーはほぼ等倍の大きさで実像をとらえる。なので、両目を開けてファインダーをのぞくことができ、そのガラスの中に美しい50mmブライトフレームと二重像が折り重なった景色がまさに浮かび上がる。夜のネオンに照らされた街でこのファインダーの中の世界を見てしまうと、もうなんと言うか映画の世界の中にでもいるような気分になる。
この世界を知ってしまうと、もうM3からは離れられない。いくつかのカメラを所有したとしても、必ずこのカメラに舞い戻ってくる。そんなカメラレパートリーの中の要のような存在なんだ。にゅるりと絶妙な感触のダブルストロークを巻き上げ、雑踏のガヤに打ち消されてほぼ無音のシャッター音は、まさに夜の街に潜むハンターのような気分を堪能させてくれる。
こんな素晴らしいカメラが1954年に世に生まれたとはにわかに信じがたいけど、だからこそM3は今もライカのカメラの王様とも言わんばかりに君臨するのである。フォルムを含めたコンパクトさやチャーミングさでいえばバルナックライカの存在感が際立つけど、カメラと写真の精密性でいえばM3がその何倍も上を行く。まさに本質を追求する玄人好みのカメラと言えるだろう。
この至宝のM3とファインダーが使えるかぎり、僕はデジタルライカには行かないだろうな。そんなことを再確認する夜にもなった。世の中には時を重ねて圧倒的に性能が高くなっていく進化ばかりではない。このM型ライカのように、最初に登場したM3を超えられずにいる進化というのもある、そんなことを証明するかのように今も輝き続ける生きた伝説、それがLeica M3という唯一無二のカメラなんだ。