フィルムカメラ

カメラにおいて、シャッター音とは最も尊いものかもしれない。

Nikon F6

機械はサウンドが大事だ。例えば自動車のエキゾーストノートがそうであるように、使い手をソノ気にさせるのは音であり振動的感触だ。機械ということでいえばカメラも同様だ。特にフィルムカメラは、フィルムを装填する時のパトローネがボディと擦れるところから、人間をゾクゾクとさせる。そして、フィルムを巻き上げシャッターを切った時に、その興奮は頂点に達する。

僕の中で最高のサウンドを奏でるフィルムカメラといえば、この3台だ。Leica M3、Nikon F2、そしてNikon F6だ。もちろん異論もあるだろう。それはそうだ、サウンドとは完全に個人的主観によるところが大きい。それだけ、その人の本能に直接響き渡るものだから。僕にはこの3台のサウンドが突き刺さったということ。理屈じゃない、魔性の音であったということだ。

もちろん、その音の真髄は生で聴かなければ本当の心の震えは体感できないけど、その片鱗は現代ならYouTube動画の中で少し感じ取ることはできる。僕は試聴専用として「記憶カメラのYouTubeチャンネル」を開設しているが、その中にストックしたカメラユーザーたちのサウンドを聴いてほしいと思う。片鱗は感じとってもらえるはずだ。

まずは、Lens M3だ。フィルム時代のM型ライカはその挙動のすべてが素晴らしいといって間違いないが、なかでもサイレントシャッターといっていい静かなシャッター音は絶品だ。街中の雑踏では完全にその音はかき消され、ストリートスナップを容易にする。この動画の音はまだ大きすぎる。実際に聴くM3の音は「かすかに、ささやくような音」で、これは一眼レフ機には決して真似できないレンジファインダー機の最高峰、M3ならではの音といっていい。

つぎは、機械式カメラの世界最高峰レフ機といっていいNikon F2だ。一眼レフは、まさに前出のLeica M3に対抗するために日本のフィルムカメラブランドが起死回生の一撃として極めたマシーン。それは、シャッター音をもまったく真逆を行く。M3のサイレントシャッターに対して、一眼レフ機のシャッター音は「叫び」のような主張する音を響かせる。なかでもF2の音は、街中でシャッターを切ることを躊躇させるような甲高い派手なシャッター音を奏でる。頭蓋骨にまで響くその音と振動は、人間をある意味、興奮させる。アドレナリン的カメラだ。

そして最後は、Nikon F6だ。Nikonが世に送り出した最後のフィルムフラッグシップ機。そのクオリティはもはや尋常ではない域に達しているといっていい。ひとたびこの音を聴けば、デジタル一眼レフ機たちがまだその孤高の域には達していないことを痛感する。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、僕はそう思う。人生でここまで心震えたシャッター音は他にない。Nikon社はこいつを世に放つ時、まさにシャッター音を最高の音色になるようチューニングしたと語られている。その逸話はダテじゃない。恐ろしく官能的すぎて、このシャッター音を聞きたくてフィルムを装填する人は少なくないと思う。別格とはこのF6のことを言う。そういう凄みがこのカメラにはある。

以上が僕のシャッター音で酔いしれた、この世の最高の3台だ。たしかに個人的な見解だが、この世に一人でもそう思う人間がいるとするならば、それは嘘にはなるまい。本当のことをいえば、生でこのカメラたちをかまえてその音色を聴いてほしいが、それは店頭で実体験するまで楽しみとしてとっておいてもらうしかない。ただし、聴いたが最後、それはそのカメラをじぶんのものにせずにはいられない激しい感情を生むことだろう。ハートに突き刺さるとはそういうことである。そこに検討の余地はない。あるのは、避けようのない欲望だけだ。

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